はじまりの部屋
初めて一人暮らしを始めたのは、北関東の田舎から、進学のために東京に出て来た19歳の時。もう、20年近く前になる。
場所は埼京線の十条。
家賃6万3千円。
昔からある商店街が駅まで伸びていて、日用品の買い物に困らなかった。
六畳のタタミとガラスの障子と一人用には大きな空間の台所、ガチャガチャ回して点火するお風呂。
無理矢理よく言えばレトロ、正確にはただ古いだけ、でも自分だけのお城。
とにかく何もかも、自由に時間を使えるのが嬉しかった。母親はわりと支配的なひと(自覚なし)なので、しょっちゅう私の家に来たがったのだが、一人暮らししても離れられないのかと、軽く絶望を感じた。
お金は両親に出してもらっていたから、断りにくくて、それもストレスだった。
自分が何を欲しているのか、よく分からないまま大人になってた。
自由だけど、その分、内面の怒りと向き合わざるを得ない時間が増えて、色々と暗黒な日々だった。
とりあえず経済的には独立した!部屋
働き初めて手取りが15万だった。(それは20年近く今に至るまで、変わらず続くことになる)
ちまたで言われる、“家賃は手取りの3分の1に抑えましょう”を真に受けて、4万2千円のところに引っ越した。ほぼ家賃だけで決めた。
場所は有楽町線の氷川台。
家賃が安かった理由だろう、駅から徒歩25分だった。自転車を使えばよかったんだけど、律儀に毎朝駅まで歩いて通った。
部屋にロフトがあるのが嬉しくて、そこにベットを置いた。秘密基地な感じが大変よかったけれど、夏は暑すぎてとても寝られなかった。
自分の生活力(自炊力、お片付け力)も今よりずっと乏しくて、狭い部屋はいつも雑然としていた。
とりあえず、親から経済的に独立できたものの、漠然とした不安を毎日抱えていた。
店員に話しかける時、何と言って話しかけたらよいのか分からなかった。いつもうっすら黒いモヤがかかったみたいに、心が沈んでいた。
よく衝動にかられて夜中にコンビニに行き、どか食いするお菓子とアイスを買い求めた。
ゴミだらけの部屋に、まさかのネズミが出たので、お引越し。
迷走中の部屋
前の部屋の狭さにうんざりしていたので、今度はできるだけ、広いところに住もうと決心した。しかし手取りは変わらない。上げても、ギリ1万円だな、と思って、その予算でかつ、20平米以上の条件で検索した。
数少ないヒットした中に、一階が隠居した老夫婦の大家さんで、二階を貸してくれる(水回り、バストイレはもちろん専用でついてる)という木造一軒家の物件に行き当たった。
5万3千円、常磐線亀有。
物珍しさと、日当たりの良さと、2階全部を使える、25平米はあったと思う、広さに感激して契約を決めた。
大家さんは悪い人たちではなかったが、お年のためか、一日中大きな声がうるさかった。TVも大音響だった。木造で、もともとは同じ家だから(2階に上がる階段はコンクリートで塞がれていたが)容赦なく、響く響く。
おまけに黒々ふっくら育った家育ちのGに、暑い日はほぼ毎朝遭遇した。天井にも何かが住んでる音がした。
次、行こう次
理想の部屋(仮)
木造というのは色んなモノを隙間から通しやすい。今度は絶対、鉄筋のマンションにしようと思った。
前の部屋では取り付けられた風呂が狭く、湯量も少ないため、近くのスポーツジムのお風呂に行っていた。その会費が9千円近く。ジムは解約するから、その会費分を家賃に上乗せしよう、と考え、予算6万5千円以内で検索。すると劇的にヒットする件数が増えて、都内で一人暮らしするならこの価格帯が一般的なんだな、とようやく気がつく。
職場までを考えてもより取り見取りになったはずなのだが、またしてもロフト付きに惹かれて契約。
千代田線の綾瀬、6万3千円。
ねずみもGも出ない、まともな部屋だった。
気に入ったのはリビングのドアを閉じると、廊下から視界が切り離されて、台所やバストイレのドアが見えなくなること。出窓がついていて、日当たりもよく、最上階角部屋で遠くにスカイツリーが見えた。気持ちがいい。理想的なお部屋にたどり着いた、と思った。
沼に落ちる
…が、しかし。
ここで平和な数年間を過ごしたあと、うっかり宝塚歌劇という沼に落ちる。
ドボ----------------ン。
(あれ、底が見えないゾ、まいいか)
綾瀬駅から東京宝塚劇場のある日比谷駅まで乗り換えなしで約20分。「日比谷までいっぽん」の理想的な環境である。
当時は出勤途中に用もないのに、いったん地下鉄から劇場前に出て、乗り換えの駅へ歩いていた。
日比谷駅にはそこかしこに宝塚のポスターがあって、その前を通るだけで、今日一日頑張ろう、とか思った。
そんな子供みたいに熱をあげるのだから当然、再びお引越ししたくなる。
自分でも笑ってしまうが、出来るだけ劇場の近くに住みたかったのだ。日比谷までいっぽん、と言わず、もうお隣にテントでも立てたい。
自分の手取りで日比谷なんて無理だろう、とは分かっていた。
日比谷から歩ける、東京駅あたりならどうだろう?ビジネスパーソン向けに7万円くらいであるかも…?
無かった。ワンルーム最低でも8万円台から。ムリ。
必死で検索した。どーしてもテント、じゃなかったせめて歩って行ける所に住みたい!
見つけたのが、この記事
記事は、銀座駅近に住むのは難しいけど銀座駅(銀座一丁目駅、東銀座駅も含む)に徒歩圏内なら意外と安いよ、という内容。
銀座まで徒歩15分以内に住める選択肢があるなら、日比谷だって近いじゃないか!
この記事に乗ってる家賃相場は高すぎるけど、思ったより高くないから自分に手の届く物件もあるはず!
俄然、お部屋探しに燃えました。
理想の部屋(今のところ最終章)
というわけで。
今はめでたく東銀座に住んでる。7万5千円。
これ以上の値段になると、更新時の事も考えると自分には厳しいだろう。手取りの3分の1をすでに大きく超えているけど、他の予算との兼ね合いや、満足度を考えると、許容範囲。
劇場までたったの徒歩15分。嬉しくてほぼ毎日通ってます。楽しい。
思えば、快適な空間を求めては引越しを繰り返してきた。
今住んでいる場所はロフトなんかない。ワンルームでおまけに、ミニキッチンだの冷蔵庫だの洗濯機だのが、ソファーの横にデンと存在している。北向きだし、バストイレ一緒だし、ベランダすらない。でも自分が心から欲しているのは、部屋のスペックじゃなかった。大好きな世界にアクセスしやすい環境だった。
部屋もいつしか綺麗に保てる様になった。コンビニにはあまり行かなくなった。
ひとり暮らしを始めた頃は、自分が本当は何をしたいのか、何をしてる時に楽しいと感じるのか、まったく分からなかった。苦しかった。
今なら比較的はっきり分かる様になったし、それを手に入れるために何を削って、何を優先させれば良いのかも見極められる。
自分を変えてくれる劇的な何かが、特別あった訳じゃない。長い長いひとり暮らしで、その都度小さな色んな事を決める事で、徐々に自分を取り戻せた。そして好きな事を見つけて、欲しいものは手に入れることができる様になったのだと思う。
それはささやかだけど私の勝利だ
一人暮らし、バンザイ
↓宝塚歌劇について書いてます
↓お部屋の間取りについて
↓生活費うちわけ。住むところと同じくらい大事ですよねー