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「天才たちの日課」感想ー天才でも文章を書くのは大変だ

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当たり前だが、どんな天才でも少なくとも何時間か眠らなければいけないし、何か食べなくてはならない

ひとりの天才につき、数行から数ページでその生活習慣を紹介する本です

 

天才たちの日課 

 

 

村上春樹はやっぱりすごい

村上主義者(ただのいちファンです)としては、最初に書かずにいられない

何気なくページをめくって読んでいたら、子供の頃から大好きな村上春樹が突然出てきて、不意打ちをくらったのだ。

筆者はファンにはよく知られてるエピソードをうまくまとめている

まだ学生だった頃に「そうだ、村上さんに聞いてみよう」を読んで、初めて知った超健康的生活を送っているというエピソード。

いわく、朝早くまだ暗い内に起きて仕事して、ランニングと水泳をするとか、ナイトライフは皆無で夜は早く寝てしまうだとか。 

そしてこの部分

みずから作り上げたこの習慣の唯一の欠点は、二〇〇八年に本人があるエッセイのなかで認めているように、人づきあいが悪くなることだ。「何度も誘いを断っていると、人は気を悪くする」と村上は書いている。しかし、自分の人生で欠かすことのできない関係は、読者との関係だと彼は考えた。「読者は僕がどんなライフスタイルを選ぼうが気にしない。僕の新しい作品が前の作品よりようくなっているかぎりは。 だったらそれが、作家としての僕の義務であり、もっとも優先すべき課題だろう」

や、前にもどこかで読んだ事ある内容なんだけど、この本でこの箇所に行き当たったらじーんとして、不覚にも泣けてしまったよ。

生活習慣と己の芸術の関係に、注意深くなる天才は沢山いるけど

生活習慣と読者を絡めて語っている作家は、この本で読んだ限りじゃ村上春樹だけだった

超大物作家だから、ビンボーな私が何もわざわざ〝お布施〟しなくてもいいじゃーん、とか思って、ここ数年新作が出ても図書館待ちしてましたごめんなさい、な気持ちになりましたです。やっぱり自分にとって大事だと感じる作家には、お金持ちでもなんでもちゃんとお金払おう、と思わされた。。

 

ナボコフはノマドワーカー

ウラジミール・ナボコフのエピソード。

ナボコフはロシア生まれの小説家で、その執筆方法は奇妙なことでよく知られていた。それは一九五〇年から始めた方法で、最初の草稿を掛線の入ったインデックスカードに鉛筆で書き、それを細長いファイルボックスに入れていくのだ。これについて本人はこう説明している。自分は小説の全体像を描いてから原稿を書きはじめる、この方法だと、順番を気にせずに好きなところから書いていくことができるし、カードを並べかえれば、すばやく段落や章や本全体を作りかえることができる (ファイルボックスは、ポータブルデスクとしても使われていた。ナボコフは『ロリータ』の最初の草稿を、アメリカ各地を車で旅行している最中に書き始めはじめた。夜、駐車した車の後部座席ーナボコフによると、この国で騒音やすきま風のない唯一の場所ーで書いたという。)

(下線筆者)

これって、もろパソコンのない時代にパソコンで仕事するのと同じ効果を狙ったんだよね、すごくないですか?

カードを並びかえて段落や章を作りかえるっていうのは、カット&ペーストのことだし、〝ポータブルデスク〟はノートパソコンかスマホでしょう。

ナボコフって名前と「ロリータ」の作品名しか知らなかったけど、このエピソードだけで、俄然読んでみたいと思わされてしまった。

おまけに車の後部座席で書いたとか、ノマド作家みたいなナボコフ

 

女性は家事や育児の合間合間に書いているひとが多い

世間に小説を書いていることを知られたくないひとも

ジェイン・オースティン

「高慢と偏見」が映画もドラマもヒットしたし、いちばん有名だと思う

イギリスの女性作家ジェイン・オースティンは一度も一人暮らしをしたことがなく、毎日の生活のなかで一人になれる時間もほとんどなかった。

これを読んだだけで、すごいなあと思った。ていうか、どうやって書いてたの?

オースティンは朝が早く、家族が起きる前に起きてピアノを弾く。午前九時になると家族のために朝食を作る。これがオースティンのするおもな家事だった。そのあと居間執筆をしたが、かたわらで母や姉が静かに縫い物をしていることも多かった。もし来客があれば、原稿を隠し、自分も縫い物を始める。

んー、家族がいるなかで書いていたってことは、ダイニングテーブルで勉強するとか、コタツ囲んでみんなはテレビ見てるけど自分は別のことしてる、みたいな感じなのかな?

朝起きて一人の時間に執筆じゃなくて、ピアノというのも面白い。(まだ寝てる家族もいるのに、どんだけ広いお家だったんだ?)

 

カポーティとジョルジュ・サンド

トルーマン・カポーティ

「完全な水平作家でね」アメリカ人の作家カポーティは一九五十七年の『パリス・レビュー』でそう語っている。「横にならないと頭がまわらない。ベッドの上でもソファの上でもいいけど、タバコとコーヒーにすぐ手が届く状態でないとね。いつでも飲み物は必要だから。午後遅くなるにつれて、飲むものは、コーヒーからミントティー、シェリー酒、マティーニと変わっていくけど」。

水平作家とか、誰がうまいこと言えと。

 

アルコールやその他刺激物を摂取しながら、制作を続けていた天才はこの本の中だけでも、けっこういる。

ジョルジュ・サンドはそのことについて、意見を述べている

芸術家のなかには、コーヒーはアルコールやアヘンは必要不可欠といってはばからない人がいるが、私はそれには賛成できない。自分自身の豊かな想像力ではなく、薬物の影響によって創作するのも楽しいだろうが、そんな状態が続くと思えないし、そのことを得意げにひけらかすのもどうかと思う。(中略)インスピレーションは森の静寂のなかでも、乱痴気騒ぎのなかでも、湧くことがあるだろうが、自分の思想を形にするときには、一人で書斎にこもっていようと、舞台の上で演技をしていようと、意識をしっかりと保っていなくてはならない。 

うん。それは天才から何光年も離れた自分にも分かると思う。酔いにまかせて書いたものって後からみると、恥ずかしいだけだから。

アルコールやドラックというのは結局、創作上の不安から逃避するためになされる行為だ、とかざっくりそんな内容のことをどこかで読んだことがある。多分そのとおりなんだろう。

 

普通の仕事に就職している天才たち

小説家である以外に、ごく普通の一般的な職に長年就いている天才もけっこう出てくる。

アンソニー・トロロープとかすごくカッコいい

トロロープはウォルサムクロスで十二年間過ごしたが、そのうちほとんどの期間は郵政省の役人として働いていた。郵政省に入ったのは一八三四年で、退官したのはその三十三年後。そのときすでに二十冊以上の本を出版していた。

 創作活動も。

毎朝五時半に机に向かうこと、そして自分を厳しく律することが私の習慣だった。年老いた下男が、私を起こす役目を務めてくれた。そのために私は彼に年間五ポンド余分に払っていたのだが、(以下略)

早起きのために人を雇うとか。

朝早く起きるという生活習慣が、安定した職と共に、創作を安定して続けるポイントだったんだなあと思う。

文筆家として生きてきた者ー日々、文学的労働に従事している者ーならだれでも、人間が執筆をするのに適した時間は一日せいぜい三時間であるという私の意見に賛同するだろう

 天才ですらたったの三時間なら、自分が三十分くらいで、もういいやってなるのは当然のことだと思いました。

若い頃はカポーティみたいな破天荒な天才を好ましく思えたのですが、コツコツ働くことがどんなに骨の折れることなのか知った今では、トロロープみたいな天才が輝いてみえる。

 

天才でも文章を書くのは大変だ

天才というと、正直もっと書くことを楽しんでいるのだと思っていました。

でも、ここに出てくる天才たちの日常は、必ずしもそうではない。

すごく親近感をもってしまいます。

なぜなら、ここで彼らがしていることと、自分がしていることーすなわち、生活費を工面しながら、日常生活をなんとか工夫して時間を捻出し、頭の中にある何かを文字に書こうとしていることーは同じなんです。

まあ、出来上がるモノのクオリティが宇宙の果てまでかけ離れて、全然違うんですけど。

そこが天才の天才たる所以だよなあとも思いました

 

自分が小説好きなので、小説家ばかり取り上げてしまいましたが、中には映画監督とか、振付師とか、科学者とかいろんな天才が出てきます。

その数一六一人。

それぞれユニークな方法で、非凡な自身の創作と平凡な日常を、折り合わせていて本当に面白いです。

日常的に文章を書くとか創作をしている人なら誰しも、興味深く読めると思います。

 

天才たちの日課

天才たちの日課

  • 作者: メイソン・カリー,金原瑞人,石田文子
  • 出版社/メーカー: フィルムアート社
  • 発売日: 2016/10/24
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