「THE LAST PARTY」は12年前ぶりの再演
観て来ました。しかし長いタイトルだ
この作品は2004年にバウホールで元宙組トップスター大空祐飛さんと、同じく元宙組トップスター大和悠河さんの主演で、それぞれまだトップになる前のスターさんの時に、連続で上演されました
その後2006年に日本青年館で再演。主演はやっぱり同じ2人
2組にわたって連続で上演ってすごいな。めっちゃ比べられるやん。今回は単独公演で月城かなと君のみ主演の公演だけど、今もし月城かなと君と連続公演するなら誰だろう?
同期でバウ主演をこなしているのは、あーさ(朝美絢君)だけどつい最近のことだから、すでにバウ2回経験しているずんちゃん(桜木みなと君)だったのかなと思う
本当に95期は人材豊富だし、劇団が上げて話題にしたくなるのも分かる
星組のまこっちゃん(礼真琴)、花組のカレーちゃん(柚香光)に続いて月城かなと君、3人目の東上公演だ
ただ、まこっちゃんが「阿弖流為」、カレーちゃんが「はいからさんが通る」と有名な原作の舞台化で話題をさらったに比べて、今回の月城かなと君に与えられた課題「THE LAST PARTY」は一見して地味である
劇団の座付きの演出家のオリジナル作品、それも12年も前のものだ。当時ヒットしたという話も聞かない。スカステで放送されたのを観たけれど、これといって強い印象が残らなかった
来るべきトップスターのための作品
作品にあまり期待せず、たまたま初日のチケットが手に入ったから観て来たのだけど、これがけっこう良かった。何で今この作品なのか、観てようやく納得がいった
これはトップになる人がトップ修行のためにやるような作品だ
まず月城かなと君はほぼ全場でずっぱりである。衣装替えも舞台上でやってしまうくらい、ずっと舞台上にいる
そしてトップの様にたった一人で広い舞台を埋めるお芝居や、ソロを歌うシーンが多い
ほとんど一人芝居と言ってもいいくらい、スコット以外で役らしい役は、妻ゼルダと編集者マックスとヘミングウェイくらいだ。他にもゼルダと浮気する海軍士官とか、娘のスコッティとか、晩年の秘書兼恋人のシーラとか出てくるけれど、基本スコットの一人芝居
これは相当鍛えられるだろうなと思った
そして月城かなと君は、そんな劇団の期待に十二分にこたえている
舞台のゼロ番に何の気負いなく堂々と立っている(様に見える)月城かなと君に、こんなに美しいタカラジェンヌがいたのかという気持ちにされられた
もちろん今まで本公演で観ているし、バウの「銀二貫」も観に行ったさ(るろ剣で青紫様をやった美形男子に、ちょんまげで丁稚をやらす劇団のセンスって一体…と頭抱えた。いや、「銀二貫」はいい話だけど、ヅカで新進気鋭のスターがやって誰得だったんだろう?)
0番に立つタカラジェンヌを見て、初めて分かることがあるんだと思った。それは文句なくスターの輝きを持っているか否かということ。真ん中に立って、舞台上の世界を一身に背負って輝く、この人が主役なんだと誰もが納得するしかない光
月城かなと君は間違いなく、それを持っている
黒いスラックスに包まれた長い足、小さな顔、形よい金髪の頭。すくっと立つ姿がポプラとかまっすぐ育った大木の様でとても安定している。若い頃のフィッツジェラルドを演じている時の輝きは半端なかった
月城かなと君の芝居心にやられた
近くの席の人たちが幕間で「あの時代(世界恐慌前のアメリカ)の人にしか見えないねー、すごいねー」とか言っていたけれど、タカラジェンヌのあのメイクでそれはないだろうw
要するに、役として説得力があるという事だと思う
正確にはフィッツジェラルドじゃなくて、フィッツジェラルドの役を演じている役者TSUKISHIROさんという役なんだけれど、役そのものにしか見えなかったということだと思う
かなと君のフィッツジェラルドが説得力ありすぎて、フィッツジェラルドじゃないTSUKISHIROさんになると、奇妙な感じがした。これは演出が悪い。悪いというか私の好みじゃない。全部フィッツジェラルドその人という役で観たかった
ストーリーはスコット・フィッツジェラルドの人生を時系列で追っていくもの
最初の作品「楽園のこちら」を田舎で書いて世に出ようとする野心、
ゼルダをNYに呼び寄せてパーティ三昧の生活、
リヴィエラに逃げて生涯の傑作「グレート・ギャッツビー」を書く、
引き換えの様にゼルダとの精神的な繋がりを失う、
世界恐慌が起こる、
フィッツジェラルドの作風が受け入れられなくなる、
ライバルとも言えるヘミングウェイがアメリカ文壇に台頭する、
ゼルダが精神病院に入る、
〝二流〟の短編小説ではなく〝一流〟の長編小説をもう一度書こうとする、
「夜はやさし」の出版と挫折、
最後の挑戦「ラストタイクーン」
時間が経つほど人生がうまくいかなくなって、月城かなと君/スコットが苦悩する姿を拝める、という具合だ
観ていて苦しいのだけど、なぜかキツくはならない。月城かなと君が美しいのもあるけれど、安易に声を荒げて苦しむ演技をしないので、こう静かに辛い思いに耐えている感じがひしひしと伝わってくる
月城かなと君が月組に組み替えになった時は驚いた。てっきり雪組の御曹司として育てられるのだと思っていたから。でもこの演技を観ていて思ったのは、多分かなと君は芝居が好きなんだなということ
本公演を観ていても〝芝居の月組〟は今もそうだと言えると思う。「カンパニー」なんてあまり夢夢しくない、ある意味地に足着いた感じの作品をタカラヅカ化できる月組はやっぱり〝芝居の月組〟だ
月城かなと君の芝居心は、月組と相性が良いという劇団の判断なのかもしれないな、と今日観ていて思った。ようやく組み替えがふに落ちた感じで、個人的にはすっきりした
ゼルダは難しいお役
二幕でスコットとゼルダが空間を超えて、お互いのことを、美しかった日々のことを思い出すシーンがあって、とても美しくて涙が出た
くらげちゃん(海乃美月)のゼルダも良かった。さすがうまい。月城かなと君と相性が良いというより、誰にでも合わせてしまう巧さは必見
でもゼルダって映画になっているのを観ても思うけど、何か違う。馬鹿ではないけど、馬鹿の様に振る舞う、野心はあるけれど、人間的深みはない、という原作の感じを表現するのは難しいと思う
くらげちゃんのゼルダも浅はかさが足りないと思う。ちょっと知的すぎる。でもうまいから観ていて楽しい。そんな感じ
ショー付きが嬉しいです
アリちゃんが出て来てブンブンくるくる踊る、男役群舞になる、娘役加わる、かなと君出て来て群舞に加わる(ここまで全部1場面)
次がデュエットダンス。リフトもあり。ゆったり、正確にけっこうな回数を回していたなーという印象
トップさんじゃないスターさんの公演にデュエットダンスがあると本当に嬉しい。良いもの観た。きっと数年後に本公演で再びされているでしょう。こういうところもトップ修行だなあと思った
カーテンコール
カーテンコールはきっちり3回。3回目に客席はスタンドアップ
不完全な海馬なので、正確には覚えていないけれど、以下こんな感じ
1回目は普通。何を言われたか覚えてないくらいふつー。多分スカステで普通に流れる
でもかなと君、途中で胸に手を当てていた。本編でトップさんかというくらい落ち着いていたので、ああ東上初主演なんだなあと思って、始めてじーんとした
2回目、(前に歩きながら)「緊張しました」
「月組16名、専科の悠真倫さんのお力添えを頂きまして〜」という普通の挨拶
3回目
かなと君:「ジメジメしていて本当に嫌ですね、梅雨だなと思います
でも大丈夫、スコットより辛いことなんてありません」
客席:爆笑
かなと君:「…そう信じて、明日からも千秋楽まで頑張りたいと思います。本日は本当にありがとうございました!」
客席:ずーっと笑ってる
すーさん(憧花ゆりの)はアタマ痛い…ていう感じで頭に手をやられてました
「スコットより辛いことなんてありません」が本当に可笑しかった
かなと君って、どことなくひょうひょうとしているから、そういう方がポロっと本音をこぼしたという感じで…本当に演ってて辛いんだろうねと思った
でもそれでも、楽しいんだろうなあとも思う
4回目はなく、客席は普通にみなさん帰り支度
こういう規定通りなところも月組ファンって大人だなあと思う。星組とか初日は延々にカーテンコールするよね。初東上とかいうと、なおさらお祭りにしたがる雰囲気。やっぱり組のカラーって客席にも反映される気がする
とざっくり感想を書き散らしてみました。チケットはそんなに厳しくない様なんですが、なにせ他組の外箱なので、もう行かない(行けない)でしょう
要約すると、見よ月城かなとの輝きを!という公演でした
おわり!